2012年4月17日火曜日

横須賀でいちばんの井戸

私の祖父は、今年98歳になりました。
近所でいちばんの長老になってしまいました。
どこか普通の老人とは違います。背中だけはまるくはなったものの、僕が子供の頃とあまり変わっていません。


おじいちゃんは、こう言います。

「どうして、自分はこんなに長生きなんだろう。
あの町にも、この町にもあちこちに友達がいたけれど、みんな死んでしまった。
俺は、特に節制もしなかったし、ずいぶんと不養生なこともした。
でも、どうして生きているんだろう。
これは…運だな。運としか言いようがねぇよ」と。

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今朝、そのおじいちゃんから、このお家にある井戸の話を聴きました。

『昔、横須賀はみんな海だったんだ。
安浦の下は、海水浴場で、波が坂のすぐ下にまで来ていた。

俺が生まれる前はな、この平坂の下もみんな海で、切り立った崖の下に、それがあったんだ』


『横須賀も小さな村だった。横須賀村と豊島村が一緒になって、それで町になった。
この平坂はね、その横須賀村と豊島村をつなぐかなめだったんだよ。』

『あの頃は、人口がまだ7万しかいなかった。今は、40万、か?ずいぶんと人が多くなったなぁ。』

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『この平坂も、大分削ったからこれでもまだ緩やかになったけれど、以前は手押し車をひいひい言いながら登っていた難所だったんだ。

やっと上りきった所にね、ちょうどうちの井戸があって、「水をいっぱいください」って、「どうぞどうぞ」ってずいぶんとたくさんの人がこのうちの井戸の水を飲んだんだよ。』

『うちの井戸は深いよ~。ずーっと、下まで続いている。』

『あれは、戦後だったかなぁ。井戸を一度掃除するっていうんで、大がかりに消防車が来て、ずっと管を入れて、井戸の下のほうまでおろしたんだけど、もっとずっと下のほうまで伸びていて、結局見えなかった。そうしてるあいだじゅう、井戸の途中から、水がどんどん浸みだしてなぁ、青くて本当に透き通った良い水だったんだ。』

『ある人はな、これは横須賀でいちばんの井戸ですよ、って。いちばんだかどうだかはわからないけど、良い水には違いないな。
この家を建てる時にはな、井戸の権利を買って、それから、土地を買ったんだ。今も、あの時と変わらずに井戸から水が出ているけれど、今だってきっと飲めるんだと思うよ』

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横須賀には結構井戸のあるおうちがあるんですけれど、井戸の価値を知らずに、埋めてしまう方も少なくないんですね。

でも、井戸というのは、生活にいちばん必要な水を提供してくれた、命をつなぐとてもありがたい存在
そうやって、命を、生活を授かったことをすっかり忘れ、「いらないから」「邪魔だから」と言って何も考えずに井戸を埋めてしまう方がいることは、とても残念なことですよね。


夢千代

画像:街画ガイド

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